2026/08/17
「要件定義」で失敗しないために発注側が準備できること
システム開発の要件定義は、開発会社だけに任せればよい工程ではありません。発注側が「何を実現したいのか」「誰がどのように使うのか」「どこまでを今回の開発範囲とするのか」を整理できていないと、認識のズレや追加費用、納期遅延につながることがあります。本記事では、要件定義の基本的な進め方から、発注前に準備しておきたい情報、要件定義書に含まれる主な項目、失敗を防ぐポイントまで、システム開発を依頼する企業の担当者向けにわかりやすく解説します。
システム開発を外部の開発会社へ依頼する際、「要件定義は開発会社がやってくれるもの」と考えている方も多いかもしれません。
しかし、要件定義を成功させるためには、発注側にも準備が必要です。
業務上の課題やシステムを導入する目的が整理されていない状態では、開発会社も適切な仕様を判断できません。その結果、「完成したシステムが想定していたものと違う」「途中で追加開発が必要になった」といった問題につながることがあります。
この記事では、システム開発を発注する担当者に向けて、要件定義とは何か、どのように進めるのか、発注側が事前に何を準備すればよいのかを具体的に解説します。
要件定義とは?システム開発で何を決める工程なのか
要件定義とは、「どんなシステムを作るか」を決めるだけではなく、「何のために作り、何を実現するのか」を発注側と開発側で整理する工程です。
システム開発では、いきなり画面デザインやプログラムを作り始めるわけではありません。
まず現在の業務や課題を整理し、それを解決するために必要な機能、性能、利用方法、運用方法などを決めていきます。
たとえば「社内の申請業務をシステム化したい」という要望だけでは、開発に必要な情報としては十分ではありません。
確認すること | 具体例 |
|---|---|
利用者 | 誰が申請し、誰が承認するのか |
業務ルール | 承認は何段階必要なのか |
入力情報 | 申請時にどの項目を入力するのか |
利用環境 | PCだけか、スマートフォンからも利用するのか |
システム連携 | 既存の社員情報や会計システムと連携するのか |
このような情報を一つずつ整理し、発注側と開発会社の認識を合わせながら、実際に開発するシステムの条件を明確にしていくのが要件定義です。
なぜ要件定義で失敗するとシステム開発全体に影響するのか
要件定義は、その後の設計・開発・テストの「基準」になります。ここで認識がずれると、後工程になるほど修正範囲が大きくなります。
たとえば、発注側では「当然できると思っていた機能」が、開発会社側では「開発範囲に含まれていない」と認識されていたとします。
要件定義の段階で気づけば、その場で要件を追加・調整できます。
しかし、システムがほぼ完成した段階で判明すると、画面設計やデータベース、プログラムまで変更しなければならない可能性があります。
表面化する問題 | 要件定義段階で考えられる原因 |
|---|---|
必要な機能が足りない | 現場の業務や要求を十分に確認していなかった |
追加費用が増える | 開発範囲と優先順位が整理されていなかった |
完成しても現場で使われない | 実際の利用者を要件定義に参加させていなかった |
スケジュールが遅れる | 発注側の確認・意思決定体制が決まっていなかった |
要件定義で重要なのは、最初から完璧な仕様書を作ることではありません。
「決まっていること」「決まっていないこと」「確認が必要なこと」を発注側と開発会社で共有できる状態にすることが重要です。

要件の認識のズレが、プロジェクト全体の混乱につながる流れについては、システム開発の「炎上」はなぜ起きるのか、発注側ができる予防策で詳しく解説しています。
要件定義と要求定義の違い
「何を実現したいのか」を整理するのが要求、「そのためにシステムとして何が必要なのか」を具体化するのが要件、と考えると理解しやすくなります。
項目 | 内容 |
|---|---|
要求 | 利用者や企業が実現したいこと、解決したい課題 |
要件 | 要求を実現するためにシステムとして満たすべき条件 |
たとえば「営業担当者が外出先から顧客情報を確認できるようにしたい」というのは要求です。
そこから、
スマートフォンからアクセスできる
顧客名・担当者名などから検索できる
ログインした営業担当者だけが顧客情報を閲覧できる
といった条件に落とし込むことで、システムの要件になっていきます。
実際のプロジェクトでは、要求定義と要件定義を完全に分けるのではなく、ヒアリングを繰り返しながら並行して整理することもあります。

要件定義を始める前に発注側が準備できる6つのこと
発注側が専門的なシステム仕様を作る必要はありません。まずは「現在の業務」と「実現したい状態」を説明できるようにしておきましょう。
開発会社へ相談する前に、次の6項目を整理しておくと要件定義を進めやすくなります。
# | 準備すること | 確認したい内容 |
|---|---|---|
① | 導入目的 | 何を改善するためのシステムなのか |
② | 現在の業務フロー | 誰が、いつ、どのように作業しているのか |
③ | 現場の課題 | 時間がかかる作業やミスが起きる箇所 |
④ | 機能の優先順位 | 必須機能と追加できればよい機能を分ける |
⑤ | 利用者・利用環境 | 誰がどこから何の端末で利用するのか |
⑥ | 予算・納期・体制 | プロジェクト上の制約条件を整理する |
1. システムを導入する目的を整理する
最初に整理したいのが、なぜシステムを作るのかという目的です。
「管理システムを作りたい」「DXを進めたい」だけではなく、システムによって現在の業務をどう変えたいのかまで掘り下げます。
曖昧な要望 | 目的まで整理した例 |
|---|---|
受発注システムを作りたい | Excelへの二重入力をなくし、受注処理にかかる時間を短縮したい |
顧客管理をシステム化したい | 担当者ごとに分散している顧客情報を一元管理したい |
申請をデジタル化したい | 紙で回覧している承認作業をオンライン化し、確認状況を可視化したい |
目的が明確になれば、「その目的を実現するために本当に必要な機能は何か」という判断がしやすくなります。
2. 現在の業務フローを整理する
新しいシステムの仕様を考える前に、現在の業務がどのように行われているかを整理します。
きれいな業務フロー図を作る必要はありません。ExcelやPowerPoint、手書きの図でも構いません。
たとえば受注業務なら
営業担当者が注文を受ける
注文内容をExcelへ入力する
管理担当者が内容を確認する
在庫を確認する
出荷担当者へ情報を共有する
売上情報を会計システムへ再入力する
このように現在の流れを可視化すると、二重入力や確認待ち、属人化している作業などが見つかりやすくなります。
業務フローを整理するときの確認ポイント
誰が作業しているか
どのタイミングで作業しているか
Excel・メール・既存システムなど何を使っているか
同じ情報を複数回入力している箇所がないか
特定の担当者しか分からない作業がないか
3. 現場で困っていることを集める
経営層やシステム担当者だけで要件を決めると、実際にシステムを使う現場とのズレが生まれる場合があります。
可能であれば、現場担当者にもヒアリングしておきましょう。
確認したいこと | ヒアリング例 |
|---|---|
時間 | 毎日・毎月、特に時間がかかっている作業は何か |
ミス | 入力間違いや確認漏れが発生しやすい作業は何か |
二重作業 | 同じ情報を複数のファイルへ入力していないか |
属人化 | 担当者が休むと止まってしまう業務はないか |
こうした現場の実態を把握することで、単に機能が多いシステムではなく、実際の業務で使われるシステムを設計しやすくなります。
4. 必要な機能を「必須」と「できれば欲しい」に分ける
要件定義を始めると、さまざまな部署から要望が出てくることがあります。
すべてを初期開発に盛り込むと、開発費用と期間が大きくなるため、優先順位を付けることが重要です。
優先度 | 判断基準 |
|---|---|
必須 | これがなければシステム導入の目的を達成できない |
優先度:高 | 可能であれば初期リリースに含めたい |
優先度:低 | リリース後の追加開発でも問題ない |
「全部必要」としてしまうのではなく、目的に照らして優先順位を付けることが、予算やスケジュールをコントロールするうえでも重要です。
5. 利用者と利用環境を整理する
誰が、どこで、どのようにシステムを利用するのかも重要な要件です。
システムを利用する人数
利用する部署
管理者と一般ユーザーで操作できる内容を分ける必要があるか
社内からのみ利用するか、社外からもアクセスするか
PC・スマートフォン・タブレットのどれを使用するか
利用環境によって、画面設計だけでなく、認証方法やセキュリティ、インフラ構成なども変わります。
6. 予算・納期・社内の意思決定者を確認する
要件だけでなく、プロジェクトの制約条件も整理しておきます。
確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
予算 | 初期開発にかけられる予算の目安・上限 |
納期 | いつまでに必要なのか、その理由は何か |
担当者 | 開発会社と日常的にやり取りする人 |
意思決定者 | 仕様・費用などを最終的に判断する人 |
要件定義が終わってから「予算に収まらない」「社内承認が取れない」となると、再度要件を見直す必要があります。
要件定義に限らず、開発会社へ依頼する前に整理しておきたいことは、システム開発を外注する前に確認すべき5つのこと|発注準備ガイドにまとめています。
システム開発の要件定義はどのように進める?
要件定義は、一度の打ち合わせですべてを決めるのではなく、ヒアリング・整理・確認を繰り返しながら具体化していきます。
プロジェクトの目的を確認する
なぜシステムが必要なのか、何を改善したいのかを共有します。現在の業務をヒアリングする
現状の業務フローや使用しているツールを整理します。課題と要求を整理する
現在困っていることと、実現したい状態を明確にします。必要な機能を洗い出す
要求を実現するために必要なシステム機能を整理します。非機能要件を整理する
性能、セキュリティ、バックアップなどの条件を確認します。システム化する範囲を決める
今回の開発に含める範囲と、対象外とする範囲を明確にします。優先順位を決める
予算や納期を踏まえて機能の優先度を調整します。要件定義書などにまとめる
合意した内容を成果物として残します。
重要なのは、開発会社が一方的に要件を決めるのではなく、発注側と開発側が確認を重ねながら認識を合わせることです。
要件定義書には何を書く?主な項目
要件定義書には、システムの目的から機能・性能・運用条件まで、設計や開発の前提となる情報をまとめます。
項目 | 主な内容 |
|---|---|
背景・目的 | なぜシステムを開発するのか |
対象範囲 | 今回どこまでシステム化するのか |
業務要件 | システム導入後の業務フローやルール |
機能要件 | システムで実現する機能 |
非機能要件 | 性能・可用性・セキュリティなど |
データ要件 | 扱うデータや移行するデータ |
外部連携 | 既存システムや外部サービスとの連携 |
運用・保守 | リリース後の運用方法や管理体制 |
発注担当者がこれらをすべて専門的に記述してから相談する必要はありません。
開発会社との打ち合わせの中で情報を整理しながら、必要なシステム要件へ落とし込んでいくことができます。
機能要件と非機能要件の違い
機能要件は「何ができるか」、非機能要件は「どの程度の品質・性能で動く必要があるか」を定めるものです。
機能要件 | 非機能要件 |
|---|---|
ユーザー登録ができる | 何人まで同時に利用できるか |
商品を検索できる | 検索結果を何秒程度で表示するか |
申請を承認できる | 誰がアクセスできるようにするか |
CSVを出力できる | バックアップをどの頻度で取得するか |
機能要件ばかりに目を向けると、「必要な機能は揃っているが、動作が遅い」「アクセスが集中すると使えない」といった問題が発生する可能性があります。
業務上重要なシステムほど、非機能要件についても開発会社と確認しておく必要があります。
発注側が要件定義書を完成させてから相談する必要はない
「要件が決まっていないから、まだ開発会社には相談できない」と考える必要はありません。課題整理の段階から相談できる会社もあります。
システム開発に慣れていない企業が、自社だけで細かい機能仕様まで決めようとすると、本来解決したい課題よりも「どんな機能を作るか」に意識が向いてしまうことがあります。
発注前に最低限整理しておきたいのは、次のような情報です。
現在困っていること
システムによって改善したいこと
現在の業務の流れ
主な利用者
希望する導入時期
想定している予算
技術的な実現方法については、これらの情報をもとに開発会社から提案を受けながら決めることができます。
むしろ、「どう作るか」まで決め切るのではなく、「何を解決したいのか」を明確にすることが発注側の重要な役割です。

RFPと要件定義書は同じもの?
RFPは開発会社へ提案を依頼するための資料、要件定義書は実際に開発するシステムの条件を具体化するための資料です。
RFP(提案依頼書) | 要件定義書 |
|---|---|
開発会社へ提案を依頼するために使用する | 実際に開発するシステムの条件を整理する |
目的・課題・予算・スケジュールなどを記載する | 機能・性能・データ・運用条件などを具体化する |
開発会社選定前に作成することが多い | 発注後の要件定義工程で作成することが多い |
一般的には、RFPをもとに複数の開発会社から提案を受け、その後選定した会社と要件定義を行い、仕様をさらに具体化していきます。
要件定義で失敗しないために発注側が意識したい4つのポイント
発注側で重要なのは「仕様を決めること」よりも、判断材料となる業務情報を開発会社へ正確に伝えることです。
「欲しい機能」ではなく「解決したい課題」から伝える
たとえば「検索機能が欲しい」とだけ伝えるのではなく、
「商品数が増え、営業担当者が必要な資料を探すのに毎回時間がかかっている」
と背景まで共有します。
課題が分かれば、検索機能だけでなく、カテゴリー分類、タグ付け、絞り込み、お気に入りなど、より適切な方法を開発会社から提案できる可能性があります。
実際に利用する現場担当者を参加させる
管理者にとって便利なシステムが、現場にとっても使いやすいとは限りません。
たとえば管理のために入力項目を増やしすぎると、現場の入力負荷が高まり、結果としてシステムが使われなくなることがあります。
可能であれば、要件定義の段階から現場担当者にもレビューへ参加してもらいましょう。
現場の声を反映しないまま開発すると、完成後に使われないシステムになりがちです。その理由と対策は業務システムが現場で使われない4つの理由をご覧ください。
曖昧な表現を残さない
次のような表現は、人によって認識が異なります。
曖昧な表現 | 確認したいこと |
|---|---|
簡単に操作できる | 誰が、何ステップ程度で操作できればよいのか |
大量のアクセスに耐えられる | 最大何人程度が同時に利用するのか |
すぐ表示される | 何秒以内を目標とするのか |
要件定義では、可能な範囲で具体的な条件へ置き換えていきます。
変更が起きる前提で優先順位を決める
要件定義を丁寧に行っても、開発途中で新しい要望が出ることは珍しくありません。
そのため、「変更を一切発生させない」ことを目指すよりも、変更が出たときに何を優先するのかを決めておくことが重要です。
納期を最優先するのか
予算上限を最優先するのか
必要な機能をすべて実装することを優先するのか
優先順位が決まっていれば、追加要望が発生した場合も「次回リリースへ回す」「別の方法で実現する」といった判断がしやすくなります。
開発会社へ相談する前の要件定義準備チェックリスト
すべてを埋める必要はありません。まずは「分かっていること」と「まだ決まっていないこと」を整理するために使ってください。
システムを導入する目的を説明できる
システム導入によって改善したい課題が整理されている
現在の業務フローを把握している
実際にシステムを利用する人が分かっている
現場担当者から現在の不満や課題を聞いている
必要な機能に優先順位を付けられる
既存システムとの連携有無を把握している
想定予算または予算上限を社内で確認している
希望するリリース時期とその理由を説明できる
プロジェクトの担当者と意思決定者が決まっている
この段階ですべてにチェックが付いていなくても問題ありません。
むしろ、「ここまでは決まっているが、この部分は相談しながら決めたい」と整理されている方が、開発会社も必要な提案をしやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q. 要件定義は発注側と開発会社のどちらが行いますか?
一般的には、発注側から業務上の要求や課題を共有し、それをもとに開発会社が技術的な観点を加えながら要件を整理していきます。どちらか一方だけで完成させるのではなく、双方で認識を合わせながら進める工程と考えるとよいでしょう。
Q. 要件定義書がなくても開発会社へ相談できますか?
相談できます。システム開発に慣れていない場合は、要件定義書を自社だけで完成させる必要はありません。「現在困っていること」「実現したいこと」「現在の業務フロー」などが整理されていれば、そこから開発会社と一緒に要件を具体化できます。
Q. 要件定義では何を決めますか?
システム開発の目的、対象となる業務、利用者、必要な機能、性能、セキュリティ、外部システムとの連携、運用方法などを整理します。プロジェクトによって必要な項目は異なります。
Q. 要件定義に現場担当者も参加した方がよいですか?
可能であれば参加してもらうことをおすすめします。実際の業務フローや日々感じている不便は、システム担当者や経営層だけでは把握できないことがあります。現場の意見を取り入れることで、導入後に利用されるシステムへつなげやすくなります。
Q. 要件が途中で変わった場合はどうなりますか?
変更内容によっては、追加の開発費用やスケジュール変更が必要になります。そのため、要件定義の段階で機能の優先順位を決め、「初期リリースに必要なもの」と「後から追加できるもの」を分けておくことが重要です。
まとめ|要件定義は発注側と開発会社が一緒に作るもの
要件定義で重要なのは、発注側が専門的な仕様をすべて決めることではありません。業務上の目的と課題を開発会社へ正しく伝えることです。
発注側が事前に整理しておきたい内容を改めてまとめます。
システム導入の目的 — なぜ作るのか、何を改善したいのか
現在の業務フロー — 誰がどのように業務を行っているのか
現場の課題 — 時間がかかる作業やミス・属人化がないか
機能の優先順位 — 必須機能と将来追加できる機能を分ける
利用者・利用環境 — 誰がどこから何を使って利用するのか
予算・納期・体制 — プロジェクトの制約と意思決定方法を整理する
これらが整理されていれば、開発会社との要件定義も進めやすくなり、認識のズレや手戻りを減らすことにつながります。
一方で、すべてを発注側だけで決める必要はありません。
「何を作ればよいか分からないが、解決したい業務課題はある」という段階から開発会社へ相談し、解決方法を一緒に整理していくことも、要件定義の重要な進め方の一つです。
株式会社創新ラボ
創新ラボは、システム開発・アプリ開発・Web制作・DXコンサルティングなど、累計350社以上を支援しています。
「言われたものを作る」のではなく、目的から逆算した設計を大切に。課題整理からリリース後の改善までご一緒します。開発の外注をご検討中なら、お気軽にご相談ください。